公益財団法人 JKA
2024年度 機械振興補助事業 振興事業補助 研究補助 個別研究
補助事業番号 2024M-371
補助事業名 2024年度 立体微小構造体の大量製造を可能とするプリズムアシスト3次元リソグラフィ法の開発 補助事業
補助事業者名 群馬大学 鈴木孝明
本研究のご支援に対して、公益財団法人JKA様に心より御礼申し上げます。
1 研究の概要
次世代のIoTセンサネットワークの普及には、エネルギー自立型の電源装置や高性能な光学センサが不可欠である。本研究では、従来の3次元リソグラフィ技術では困難であった「広角な傾斜角度を持つ微細構造」を一括・大面積に製造する「プリズムアシスト3次元リソグラフィ法」を確立した。本技術を用いて、光を元来た方向に返す「再帰性反射構造」や、効率的に振動を電気に変える「摩擦発電(TENG)用凹凸構造」を作製し、構造角度の制御がデバイス性能を飛躍的に向上させることを実証した。
2 研究の目的と背景
従来の3次元リソグラフィ法は、感光性レジストの屈折率の影響により、作製できる構造角度が約35度以下に制限されるという物理的限界があった。しかし、再帰性反射材や高出力な摩擦発電デバイスの実現には、より自由度の高い角度制御が求められる。本研究は、露光界面にプリズムを導入することでこの限界を突破し、設計通りの急峻な3D形状を大面積かつ高精度に製造するプロセスを構築することを目的とした。
3 研究内容
本研究では、従来の3次元リソグラフィ技術における物理的限界(構造角度約35度以下)を打破する「プリズムアシスト法」を提案し、加工プロセスの最適化と、光学・エネルギーデバイスへの応用実証に取り組んだ。
(1)加工プロセスの最適化
従来の3Dリソグラフィでは、感光性レジスト(SU-8)の屈折率の影響により、入射光が材料内部で大きく屈折するため、作製できる構造の傾斜角度に制限があった。本研究では、45度プリズムを介して露光を行うことで光の入射角を制御し、理論上の限界角度を約60度まで拡張した。実験では、回転傾斜露光のステージ角度を精密に制御し、15度から52.5度までの多様な角度を持つテーパー構造を高い再現性で作製することに成功した。また、大面積加工時の課題であったレジスト端部の盛り上がり(エッジビード)に対し、エッジカットおよびエッジリンス処理を導入し、膜厚の均一性(約26.2μm)と構造の平坦性を大幅に改善した。これにより、mmスケールの大面積領域において、μm単位の3D構造を一括で作製できるプロセス条件を確立した。

(2)光学素子への応用(再帰性反射)
応用の一環として、入射した光を光源方向に反射する「再帰性反射構造(コーナーキューブアレイ)」の作製を行った。再帰性反射を効率的に生じさせるためには、35.3度という精密な構造角度が必要となるが、本手法を用いることで誤差わずか1.1%(実測34.9度)という極めて高い精度で鋳型を実現した。さらに、この鋳型からシリコンゴムや、応用例として「可食材料(飴)」への形状転写にも成功した。光学評価の結果、作製したデバイスが広範囲の入射角に対して高い反射輝度を維持することを確認し、食品管理や高度な偽造防止マーカーとしての有用性を示した。

(3)エネルギーデバイスへの応用(摩擦発電)
もう一つの応用例として、振動を電力に変換する摩擦発電デバイス(TENG)の性能向上に取り組んだ。接触界面に広角(〜50度)のマイクロピラミッド構造を導入し、構造角度が発電特性に与える影響を評価した。解析の結果、発電電力は有効接触面積の増加に伴い向上するが、構造角度40度において単位面積あたりの電力が極大値をとることがわかった。これは、傾斜角増大による側面積の増加と表面積あたりの接触効率のバランスが、40度付近で最適化されることを示唆している。界面構造の「角度」という新しいパラメータの導入により、TENGの出力設計指針を明確化した。

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望
本研究で確立したプリズムアシスト3Dリソグラフィ技術は、IoTセンサの自立電源化と、高度な光学センシングの2点において社会に貢献する。エネルギー分野では、本技術により最適化された摩擦発電デバイスを用いることで、橋梁や工場設備の微小振動から効率的に発電し、電池交換不要なメンテナンスフリーの監視システムを実現できる。これにより、インフラ老朽化対策のコスト削減が期待される。光学分野では、高精度な再帰性反射構造を柔軟なシートや食品に低コストで付与できる。これは夜間の交通安全を支える高視認性資材のみならず、医薬品・食品のトレーサビリティや真贋判定、体内に残留しない医療用光学マーカーなど、ライフサイエンス分野での新市場創出に直結する。このように、幾何学的な構造制御という独自の視点から、安全・安心で持続可能な社会基盤の構築を支える基盤技術として広く活用されることが見込まれる。
5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ
本研究代表者らは、これまで一貫してMEMS(微小電気機械システム)技術を基盤とした微細加工プロセスの開発と、そのバイオ・エネルギーデバイスへの応用を研究してきた。特に、昨年度(2023年度)のJKA補助事業(2023M-256)においては、3次元リソグラフィを用いた「抜き勾配」の付与によるバイオチップ成型用樹脂鋳型の長寿命化を達成している。今回の研究は、その3次元リソグラフィ技術を「既存の物理的制約(屈折角の限界)を突破する」という新たな次元へと進化させたものである。これまでの「離型性の向上」という製造支援的な位置づけから、本年度は「構造角度の制御によるデバイス性能の飛躍的向上」へと研究の焦点をシフトさせた。これにより、加工技術そのものの学術的価値を高めると同時に、光学素子や環境発電といった多角的な応用分野を切り拓くことに成功した。本研究は、当研究室が提唱する「3D微細構造による機能創成」という長期的な研究テーマにおいて、技術的ブレークスルーを果たす重要なマイルストーンである。
6 本研究にかかわる知財・発表論文等
プロジェクト全体では、関連する成果を含み、学術論文2件、国際会議発表1件、国際招待講演1件、書籍1件、国内学会発表8件、特許出願2件、受賞3件の成果が得られた。その一部を以下に示す。
1) 学術論文:Negative to zero Poisson’s ratio adjustable UV-PDMS flexible metamaterials fabricated by using 3D photolithography, Riku Ito, Yuji Takata, Yuya Tanaka, Hiroshi Toshiyoshi, and Takaaki Suzuki, Materials & Design, Vol.252, 113805, 2025.
2) 学術論文:Frequency conversion interposer with no-internal stress curved-beam for MEMS vibrational energy harvesters, Hidetaka Ueno, Hiroshi Toshiyoshi, Takaki Suzuki, Sensors and Actuators A: Physical, Vol.378, No.1, 115750, 2024.
3) 国際会議発表:Accuracy Evaluation of 3 Dimensional Microstructures Fabricated by Prism-Assisted 3D Lithography, Yufei Chen, Yuya Tanaka, Takaaki Suzuki, The 19th IEEE International Conference on Nano/Micro Engineered and Molecular Systems [IEEE NEMS2024], 3D1#7234, 2024/5/2-5, Kyoto, Japan.
4) 国際会議招待講演:Advancing Polymer MEMS with 3D Photolithography (Invited), Takaaki Suzuki, 37th International Microprocesses and Nanotechnology Conference (MNC2024), 2024/11/12-15, Kyoto, Japan.
5) 国内学会:プリズムアシスト3 D リソグラフィを用いたマイクロメッシュ構造体の作製とそのデバイス応用, 森下浩多,田中有弥,本間浩章,橋口原,年吉洋,鈴木孝明, 日本機械学会 第15回マイクロ・ナノ工学シンポジウム, 25P4-PN-55, 2024/11/25-28、仙台国際センター(宮城県仙台市), 日本機械学会 若手優秀講演表彰受賞.
7 補助事業に係る成果物
【補助事業により作成したもの】
当該事業実施により得られた知見の一部に基づいて、以下の書籍の5.4.2項を作成した。
メタマテリアル/メタサーフェス 実用展開の可能性~メタレンズ・通信・エネルギー・音響等応用に向けた研究動向~,
第5章 アプリケーション・応用から見るメタマテリアル/メタサーフェスの今後,
第4節 エネルギー利用,
第2項 振動発電
鈴木孝明(分筆)
株式会社情報機構
ISBN: 978-4-86502-286-5
https://johokiko.co.jp/publishing/BC250503.php
【所属機関によるプレス発表】
・群馬大学と株式会社SUBARUを中心とする研究グループの「ヒト内耳を模倣した振動センサ」が高評価を受け、電気学会のシンポジウムで奨励賞を受賞しました(2025/01/16)
・大学院理工学府 知能機械創製理工学領域博士後期課程の森下浩多さんと知能機械創製理工学教育プログラム博士前期課程の長谷川峻大さんが、日本機械学会 第15回マイクロ・ナノ工学シンポジウムにおいて、若手優秀講演表彰をダブル受賞しました(2025/02/14)
8 事業内容についての問い合わせ先
鈴木までお問い合わせください。



