当研究室では、独創的なマイクロ・ナノ加工技術を基盤として、安全・安心な社会を実現する高機能バイオ・光システムの実現を目的とした研究を行っています。
近年の微細加工技術の発達に伴い、MEMS(Micro electro mechanical systems)と呼ばれる微小なセンサやアクチュエータを1つの基板上に集積した、微小電気機械システムの研究が盛んに行われています。このMEMS技術を用いて、マイクロポンプ・マイクロバルブ・マイクロ流路・マイクロミキサ・センサや集積回路などをチップ上に集積化・微小化したμTAS(micro Total Analysis Systems)やLab-on-a-Chipと呼ばれるマイクロ流体システムは、化学分析やバイオ操作を微小なチップ上で統括的に行うことによって、サンプル量・試薬量・廃液量の少量化、分析時間の短縮化、操作の自動化・簡単化などが可能となると期待されています。
研究概要
当研究室では、オリジナルのマイクロ・ナノ加工技術「三次元リソグラフィ法」(日米特許取得済み)を基盤技術として、他の方法では作製が困難な形状を加工し、その部品を組み合わせて集積化した応用展開として、バイオ・光・IoTシステムを中心に検討しています。その代表として2つの応用イメージを紹介します。
【わずかな振動で自家発電する次世代IoTデバイス】
加工技術の応用例の一つは、IoT(Internet of Things)向け超小型振動発電機の研究です。
老人や子供の動きを電池レスで見守る無線ネットワークが期待されています。生活弱者が充電を気にせずともセンサで位置を把握する発信器(ビーコン)として、発電機が必要です。3次元リソグラフィ法で複雑形状を作製し、ヒトのわずかな動作から効率良く発電する超小型発電機の開発を行っています。
4コマ漫画は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)における発電デバイスの重要性を表現しています。人体の動作程度で発電する超小型発電機(エナジーハーベスタ)により、あたかも人間が発電機になるような研究です。
この研究の面白いところは、小さな構造物の固有振動数を低くする構造の検討にあります。効率良く発電するためには、デバイスの固有振動数と環境(人体)の主となる振動数が一致することが必要です。ここで、一般的に構造物が持つ固有振動数は、大きい構造物ほど低く、小さい構造物ほど高くなります。人の身につけられるように、小型化したいのですが、小さくすると固有振動数が高くなってしまいます。これを、3次元リソグラフィ法で作った特殊な構造で、固有振動数が低い構造を作り出しています。
【老化・ガン化に関わる染色体の長さを測る】
人体を構成する推定37兆個の細胞ひとつひとつに細胞核があり、核の中には染色体(DNA遺伝子)が格納されています。細胞一つあたりに格納されている染色体の束は23対(46本)あり、一本の紐状に延ばしてつなげると、メートル級の長さがあります。DNAの2重らせん構造の直径は約2.4nmですから、非常に細くて、長いひもが、一つ一つの細胞に格納されていることになります。染色体の中の遺伝子配列が変わって変異することがガンなどの病気の一因であることが分かっています。その入れ替わりや長さの変化が目で見れたら良いのですが、残念ながら、糸まり構造とも呼ばれるように細い長い糸がこんがらがっているので、見ることができません。本研究では、マイクロマシンを使って、染色体を簡単に引き延ばし、染色体の構造をこわさずに、染色体の特徴的な配列や長さを分析しようとする研究です。
老化・ガン化に関係するといわれるヒト染色体の長さを可視化して診断することができるようになります。3次元リソグラフィ法で複雑形状を作製し、遠心力を用いた簡単操作で染色体診断ができます。
研究テーマの具体的な例
マイクロナノ加工
3次元立体露光法(3Dリソグラフィ)
従来の機械加工技術と微細加工技術の空白領域を狙った、大面積複雑微細構造作製のための加工技術を提案し、技術構築に向けた加工装置開発とシミュレーション技術の構築を行っています。
シリコン結晶異方性プラズマドライエッチング法
シリコンの加工方法は、プラズマ等を用いたドライエッチング法と、特殊な薬液を用いたウエットエッチング法に分類されます。本研究では、従来、ウエットエッチングでしか実現できなかった単結晶シリコンのエッチング法を、ドライエッチングで実現することによって、電子回路との集積化、単一装置による複雑構造物の作製、環境負荷の低減などを目的として、加工技術の構築を行っています。
光反応性ナノコンポジット製造法
光硬化性樹脂とナノ粒子からなる複合材料は、樹脂の加工性と、ナノ粒子の機能性を併せ持つ材料として期待されています。本研究では、ナノ磁性粒子と永久構造用フォトレジストからなる複合材料を用いて、フォトリソグラフィのみによってマイクロ磁気駆動素子を作製する方法について検討しています。
厚膜レジスト用スプレーコート法
近年、マイクロデバイスの構造物材料として様々な膜厚に対応できるポリマーを使ったpolymer-MEMSが注目されています。厚膜レジストの課題は、その膜厚制御性にあり、従来の薄膜樹脂の塗布技術としては、スピンコート技術が良く用いられていますが、本研究では、マイクロデバイス向けの厚膜塗布法として、大型異形基板にも対応可能なスプレーコート法に注目し、加工性能の評価を行っています。特に厚膜では表面張力の影響で基板端部にエッジビードが発生するため、エッジビード形成を抑制する方法を提案、検討しています。
マイクロデバイス
進行波型バルブレスマイクロポンプ
マイクロ流体システムの重要な要素の1つとして、流体輸送を担うマイクロポンプの研究が盛んに行われています。従来のマイクロポンプの多くは、複雑な機構であるとともに、チップ上への実装に問題がありました。本研究では、流路壁面に微小変位の振動を加え、進行波を励起して流体を搬送するバルブレスマイクロポンプを検討しています。等間隔でアレイ状に配置した圧電バイモルフカンチレバーにより、シリコンゴム製のマイクロ流路壁面に進行波を励起し、流体輸送を制御できることと、高いエネルギー効率が得られることを確認しています。
多層流型マイクロミキサ
多相流は、マイクロ流路内での混合、シース流、液滴生成のために重要な流れ場の一つです。複雑流れを生成するためには、3次元的に複雑なマイクロ構造が必要となります。本研究では、3次元立体露光法を用いた3次元多層流生成デバイスの作製方法を検討しています。作製した3次元多層流生成デバイスをマイクロミキサとして適用し、蛍光溶液が拡散により混合する様子を共焦点顕微鏡により可視化し、混合効率を評価しています。
細胞配置アレイ
マイクロデバイスは、生体細胞を操作するのに適したサイズであり、細胞機能の計測や、細胞への遺伝子導入などへの応用が検討されています。本研究では、3次元立体露光法を用いて、高効率に細胞を配列する方法を検討しています。
バイオ応用
遺伝子を細胞内に運ぶ
細胞配置アレイの応用として、再生医療に向けた万能細胞の作成とその分化誘導や、環境耐性が高い植物の作成のための高効率遺伝子導入デバイスを検討しています。細胞一つ一つに、確実に遺伝子を導入する技術の構築を目指しています。
染色体の高感度分析
臨床診断向けの遺伝子解析デバイスとして、従来法より高精度・高速の分析が可能な染色体操作デバイスの開発を行っています。染色体DNAの形状を、マイクロデバイスにより簡単に操作することによって、多数のサンプルを同時に扱うことが可能になってきています。
血液一滴で高速診断
マイクロデバイスの小型化は、測定のためのサンプル溶液量を少量化し、分析時間の短縮が可能になると考えられています。本研究では、ポイントオブケアテスティング(POCT)と呼ばれるその場での診断に利用できるポータブル型血液検査システムの開発として、マイクロポンプやバルブ、センサなどの集積化を検討しています。
光応用
面光源による明るい画面
フラットパネルディスプレイは、装置の小型化、省力化などを目的として、LEDをバックライトに用いた方法が多く用いられています。本研究では、点光源からの光を用いて、効率良く、かつ、均一にパネルを発光するための導光板技術に注目し、3次元立体露光法を用いて作製した複雑微細構造をマイクロ鋳型として利用した、マイクロ金型技術構築を行っています。
車載用レーザーレーダ
準備中。(次世代モビリティ(自動運転・衝突防止・車載用))
IoT応用
超小型発電機
準備中。(僅かな振動で自家発電するIoTデバイス)
研究概要説明資料
3年生向け研究室紹介資料(2019年度版) PDF へのリンク
外部向け研究室紹介資料 research.pdf へのリンク
共同研究企業 ウシオ電機による技術情報誌「ライトエッジ」の研究室訪問記 [LINK]
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